太陽と月

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太陽と月

霧島(きりしま)深雪(みゆき)、28歳。体重68kg、身長155cm、血圧正常、血糖値も正常、白血球がやや高めだが問題はない」 スーツ姿に白衣を着た40代くらいの男性がカルテを見ながら述べた。 それを隣で聞いていた青年が眉をひそめる。 「真壁主任…そんな大きな声で女性の個人情報を読み上げなくても…。ちゃんと聞こえてますからボリューム落としてください」 真壁と呼ばれた男は、青年の言葉に目を細めた。 「は?お前、ここに何しに来たの?」 「え?」 青年は予想外の言葉が返ってきたことに驚いたようだ。 「ここにある情報なんてほとんど嘘っぱちだ。俺たちが取り扱ってんのは嘘の情報。むしろ嘘と真実を使い分けてデータ化しないと人命に関わる仕事だってこと、教わってきたんじゃねーのかよ」 真壁は呆れたように頭を掻きながら窓の外に目を向けた。 国立科学センター内警察庁特殊研究チームに1週間ほど前に配属された、研究員兼マネージャー、星野(ほしの)翔真(しょうま)は自分の立ち位置がイマイチよく分かっていなかった。 大学の研究所から引き抜かれたのは奇跡的なことだった。 特殊チームに配属など、なかなかある事ではない。 同期にもうらやましがられたほどだ。 しかし、いざ蓋を開けてみると、研究員は4名。 その中でも真壁は警察庁に属する人間であり、キャリア組だという。他の研究員は掴みどころがなくフワフワしていて、仲良くなれる気がしない。 翔真はこの1週間、毎日自分が何をしていたか思い出せないほど、この仕事を理解していないことに今更気付いた。
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