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天使の羽根
湯船に頭まで浸かって翔真は邪心を払おうとしていた。
しかし、思い浮かぶのは深雪のやわらかい笑顔ばかり。
「ぷはっ!」
湯船から顔を上げると濡れた髪をかき上げる。
― 自分で線を引いたつもりが…。なぜこうなった…? ―
同じ家で暮らしていれば意識するなと言われても無理な話で、翔真自身、制御不能になるのではないかと心配して『恋人がいる』と伝えた。それがボーダーラインになると信じての事だった。
しかし、話せば話すほど深雪の表情はコロコロ変わって胸をくすぐられる。
闇に取り込まれたような顔の深雪ばかり見ていたから、自分の恋愛話にあんなに目を輝かせるとは思っていなかった。
『触れたい……』
そう思う気持ちをどう制御すればいいのだろう。
そんな矢先に好きな人が誰かと聞かれた。
伝わるのではないかと淡い期待を抱いた愚かな自分を恥じながら、また湯船に頭まで浸かる。
しかし、本当に深刻なのは深雪に自分の気持ちが伝わらなかったことではない。
深雪が勝手に勘違いし、翔真が碇のことを好きだと思っていることだ。
湯船から顔を上げた翔真は、また両手で髪をかき上げて大きなため息をついた。
「もうすぐクリスマスか……」
深雪が一体何を仕掛けてくるのか。
クリスマスまでに何かやるに決まっている。
― 仕掛けられる前にこちらから仕掛けなくては…… ―
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