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ここは初めて二人で出掛けた場所だった。同僚の彼に誘われた私は、精一杯のお洒落をして、確かに彼とここに来ていた。
今とは違って様々なアトラクションがあって、指揮者を気取った彼は、我が儘な私の行きたい場所を予測し、先回りし、提案してくれた。全然的外れであったが、彼のそんなところが可愛かった。その時買ったお揃いのピアスを、彼は未だにもっている。私は何処かに無くしてしまったのに。
今は自然ばかりが残って、でもその静けさを私も彼も凄く気に入っている。こういう静かな場所で、取り留めのない老夫婦のような会話をすることが、こんなにも幸せだなんて、少し前まで思いもしなかった。
勾配の緩い坂を少し歩くと、彼の額から汗が滲んで、私は鞄からハンカチを取り出し、彼に手渡す。
彼は汗っかきで、いつも一生懸命私の前に立とうとしてくれる。そんなところに惹かれて私は彼を想うようになり、いつしか結婚していた。その頃、私は彼に自分自身の異常性を隠していた。
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