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夫である彼は夜中に仕事をするという私の嘘に、まんまと騙される振りをしてくれた。私が残したヒントを盡く無視したのだ。
私が檻に入る以前、私の異変に気付かなかったのと同じように、またもや彼は気付かなかったのだ。
仕事を始めた私が、別の男に抱かれ帰るのは朝方である。この異常に気付かない彼もまた異常であったのだ。
結局私たちは似た者同士で、どうしようも無いくらいに異常者同士で、境界線の彼方と此方ギリギリに立たされていて、それでもそのボーダーラインに在る隔たりの溝の深さが怖くて怖くて仕方なかったのであろう。手を伸ばせば、直ぐに手を繋げる程近くにいたにも関わらず、今の今まで繋ぐことは叶わなかった。
例えば二人、似て非なるものだとしても、共に等しく老いていきたいと願っていた。悲しいけれど、どうやらそれはもう叶わない。
或いは、今この瞬間みたいに、掌を強く強く握ってくれていたのならば、私は彼の側へ勇気を出して飛べたのやも知れない。
もう少しだけ早く、この手を握ってくれていたのなら、こんなことにはならなかったのかもしれない。
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