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そこで、鴫崎の身辺調査を行った海鴨生命は、彼がプロの詐欺師であることを知り、また、胴元の方でも不審な多額の保険金を彼にかけていることへ注目する結果となった。
ま、胴元が何かよからぬこと考えているのは明白であるが、それでもすでに契約してしまった後であるし、まだ何もしてない内から黒と決めつけるわけにもいかない。あくまでグレイであれば、胴元のやり方次第で保険金の支払いを拒否できなくなる可能性だってゼロではない。
だから、より確実に胴元の保険金詐欺計画を阻止すべく、先手を打って警察に情報をリークすると、下手に殺されて支払いを要求されないよう、鴫崎を逮捕という形で保護してもらったというわけだ。
警察としても詐欺師逮捕の手柄を立てられるし、まさしく〝WinWin〟の関係である。
……ところが、逮捕後に一つ誤算が生じた。
命拾いしたとも知らずに往生際悪くも逃亡を図った鴫崎が、逃げた先の警察署の屋上から誤って転落死してしまったのだ。
いくら保険金狙いで結んだ契約でも、被保険者が偶然の事故死ならば支払い拒否も難しいだろう。
で、やむなく懇意にしていた園下に頼み込み、支払いが免責される自殺にすり替えてもらったという寸法だ。
思うに、この海鴨生命の家地という男もただの社員ではなく、保険の調査員か何かなのではないだろうか?
まったく、詐欺を働こうとしていた鴫崎と胴元も人でなしだが、事件の隠蔽を図ったこの刑事と調査員、そして、そのバックにいる保険会社も大した悪党である。あわよくば胴元の毒殺を狙っていた甥っ子もだし、この事件に絡んでいる人間に善良な者は一人もいないのか?
「どいつもこいつも、渡る世間は悪ばかりだな……」
俺が呆れ返っている間にも、要件を済ませた悪党二人は早々に席を立って店を後にしようとしている。
予想もしていなかった展開に、最早、記事にすることも忘れて呆然と佇んでしまう俺であったが、こちらも急いで代金を支払うと、彼らを追って外へと飛び出す。
それでもなお怪しまれぬよう距離をとって尾行を続けると、交差点で二人は別れ、園下はいかにも懐が温かそうな様子で再び警察署の方へと帰ってゆく。
「園下さん!」
それを見て、俺は一気に歩調を速めると、追いついて彼の大きな背中を呼び止めた。
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