30人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、さっそく鴫崎真の巧妙な手口について取材を始めた。
とはいえ、直接、警察に行っても門前払いを食らうだけだろうし、まずは胴元千代の豪邸がある高級住宅地に行って、彼女の暮らしぶりについて聞き込みを行うことにする。
ご近所の人に話を聞けば、鴫崎の取り入った老婆の弱点がわかるかもしれないし、ひょっとしたら二人の出会ったきっかけなんかも知れるかもしれない。
ところが、いざ現地に行ってみると、なんだか妙な方向へと話は向い始める……。
「――ああ、胴元さんね。ここんとこ、マスコミが毎日来てうるさいし、家の前の道も混雑してほんと迷惑してるのよぉ。テレビじゃあんな悲劇のヒロインみたいなフリしてるけど、今回だってほんとは自分の身かれ出た錆なんじゃないのぉ?」
いまだマスコミ関係者がちらほらと目に留まる、その普段ならば閑静であろう高級住宅地を俺が訪れたその時、ちょうど庭の手入れをしていた胴元邸の斜め向かいに住む奥さんが、ひどく迷惑そうな顔をしながらも、反面、なんだか妙に協力的に自らいろいろと話してくれた。
だが、その話によると、どうにも胴元千代の評判がよろしくない。
ワイドショーや他誌では〝詐欺師に騙された善良で品の良い金持ちの老婦人〟という印象で語られているが、実際にご近所で聞いたイメージはそれと大きくかけ離れている。
〝詐欺にあったかわいそうな老人〟などではなく、〝詐欺にあっても当然の、因業ババアな金の亡者〟とでも言わんばかりの雰囲気である。
「こっそり金貸しみたいなこともしてたようだけど、ドケチだし、とにかくお金に汚いの。最近、どうも株で大損出したらしくて、それからってものは特によ。詐欺師に騙されたのだって、その穴埋めしようとうまい話に飛びついたに違いないわ」
なるほど。そういうことか……こいつは、思った以上にいい話が聞けた。
表で言われているものとはだいぶ違ったが、これは俺の書こうとしているテーマにとって大きな収穫だ。
つまり、鴫崎の詐欺があと一歩で成功するところだったのは、別に彼の腕前が優れていたわけではなく、目先の金に目の眩んだ胴元千代自身に原因があったというわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!