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いや、それどころか、もし本当にそんな経済状態だったならば、財産を狙うなんてとんでもない話であり、たとえ警察に掴まっていなくとも、鴫崎の計画は端から大失敗に終わっていたことになる。
有能な詐欺師どころか、とんだ道化者だ。
そもそもがターゲットを間違えている間抜けな詐欺計画で命まで落としたとあっては、なんとも情けなさすぎて笑い話にもならない。
哀れな鴫崎に同情の念すら覚えつつも、俺はさらにその界隈で聞き込み取材を続けてみる。
「ああ、うちにもかかってきたよ。時期からして……そうか、あれはあの犯人からだったのか。ま、よくある胡散臭い儲け話だったんで、話し途中ですぐに切ってやったがな」
「ええ。そりゃあもう、仲良さそうにしてたわよ~。傍から見てて、本当に孫か親戚の子かなにかと思ったくらい」
すると、近隣の住人達にも鴫崎と思しき不審者からの投資を持ちかける電話があったようであるが、胴元千代以外は怪しんで誰も相手にしなかったこと、また、鴫崎よりも、むしろ胴元の方から積極的に彼と親しくしようとしていた節のあることがわかった。
養子縁組までしたくらいだ。当初は金目当てで騙された振りをしていたものの、何をそんなに気に入ってしまったのか? 頻繁に胴元の家へ呼ばれて来る鴫崎や、親しげに彼を門前で見送る千代の姿が近所の人々によって目撃されている。
だが、彼女の経済状況について裏をとるため、様々なコネを駆使して銀行などに当たってみた結果、さらに予想外の様相をこの事件は呈し始める。
「ええ。詳しいことは守秘義務で申し上げられませんがぁ……ま、相当お金に困っていたことだけは確かなようですね。あ、でも、その割には最近、高額の生命保険を契約されてますよ。ほら、例の義理の息子さんに関してです」
「生命保険? 胴元さんが? 鴫崎が胴元さんにではなく?」
取材ソースは明かせないが、とある業界関係者のぽつりと口にしたその言葉に、俺は思わず身を乗り出すとっ首を傾げて聞き返してしまう。
なんと、胴元は鴫崎真に対して多額の生命保険をかけていたのだ。
いや、鴫崎が胴元にかけるのなら話はわかるが、実際はその逆なのである。
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