渡る世間は悪ばかり

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 トラフグは世間一般によく食べられている高級食材の反面、その毒を取り除いて安全に食べるとなると、専門の免許を持った調理人以外では非常に難しい……そんなフグ毒ならば、調理を誤って口にしてしまったと言い訳することだってできるだろう……。  そう……俺の推理が正しいならば、胴元千代は確実に保険金をせしめるために、鴫崎の具体的な殺害計画まで立てていたのだ。  なんという皮肉であろう。まんまと騙されていたのは資産家の老婆ではなく、逆にその老婆に詐欺を働こうとしていた詐欺師の方だったのである!  その真相に思い至り、俺はこの件を記事にするかどうか迷った。  俺自身も驚いたくらいだから、ほんとに予想外の展開だ……確かにこれは大スクープであり、センセーショナルな話題になること間違いないだろう。  …………だが、証拠がない。  十中八九、そうに違いないとしても、なんの証拠もなしに記事にするのは名誉棄損で訴えられたりと後々面倒だ。大手さんならともかく、うちのような零細出版社では裁判費用すら出せやしない。  そもそも「保険金目的で詐欺師を毒殺しようと考えていた」だけでは、罪に問われるかどうかさえも怪しい。  そこで思案した挙句、俺は善良な市民の義務として、まずはこのネタを警察に持って行ってみることにした。  警察が捜査して証拠を掴み、胴元千代がなんらかの罪に問われるようなことになったら、その時点で記事にしても他社を一歩リードできる。それにこうして恩を売っておけば、この先、いろいろと情報をリークしてもらえるかもしれない。  我ながら、これは一石二鳥の良い思いつきである。 「――わかりました。それはわざわざありがとうございます……ああ、今入って来たのが担当の園下ですので、すぐにお取次ぎします」  さっそく警察署を訪れ、窓口で婦警さんに要件を伝えていると、運良くも園下(そのした)という事件担当の刑事がちょうど外出から帰って来たところだった。 「あ! 園下さん、海鴨(うみかも)生命の家地(いえじ)さんという方が見えてますよ」  しかし、今度は運悪くも俺の相手をしてくれた婦警さんよりも先に、別の警官がそんな伝言を正面玄関の方へ向かって告げる。
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