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田中さんとは今でも仲良くしているし、彼女は俺の事を一生の恩人だと言ってくれたが、それ以上の好意を抱いている素振りは一ミリも無かった。証拠に、学校のマドンナの一人となった田中さんは先日、他校の読者モデルの男子と付き合い始めたらしい。
ショックな事はショックだったが、失恋と言うよりも、大事に育てた娘が嫁いでいってしまった父親の心境に近いかもしれない。
「今年の文化祭、叶に期待してる奴多そうだよな」
「そうなんだよ……! 嬉しいけどめっちゃプレッシャーで!」
「あ、モデル、佐藤さんは?」
「あの子もう結構可愛いじゃん……。伸びしろ無いよ……」
「山田さん」
「うーん、インパクトが欲しい」
友人が、あの子はどうだ、この子はどうだと名前を羅列してくれるが、田中さんの時のような直感が働かない。こう、胸が熱くならないと言うか。
結局何の収穫も得られぬまま、授業の準備を急かす予鈴が鳴り響く。
「んー、まぁ、参加受付の締め切りまでまだ時間があるし、他のクラスも見てみる」
「そうだな、新入生とかもいるしな。田中さんみたいな逸材がこんな間近に居た事自体が奇跡なんだよな」
ホントお前良い仕事したよ、と再び褒められ、にやける口元を制御しきれなかった。
本鈴が鳴り始めると、今日から俺達の担任になる教師が教室へと入って来て、クラスメイト達は慌てて自分の席へと戻って行く。
通路に足を投げ出して座っていた俺も、正面を向いて座り直した。
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