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いよいよコンテストまで一ヶ月を切った頃には、桜木がクラスメイトと会話をしているのは当たり前の光景になっていた。
本番を目前にして、俺達も、そして他の参加者達も追い込みをかけている。
俺達のように、モデルの外見を変えるという課題で参加している奴らの偵察に行ってみたりしたが、敵ながら天晴れ、と思うチームは居ても、やっぱりうちの桜木が一番だな、という自信は覆らなかった。
親馬鹿って、多分こんな気持ちなんだろうな。
しかしあと一歩、何かが物足りない。桜木の魅力に惹き付けられている野次馬を完全に屈服させる最後の一突きが欲しい。
「うーん、何かが足りないんだよな……」
「何かって?」
「それが分かれば苦労しないんだよ……」
放課後のトレーニングを終え、トレーニング室の隅で体を休めながらも、頭の中はその事で忙しない。
「あれ、叶君におーぎ君!」
明るい声に呼ばれて顔を上げれば、そこにはジャージ姿の田中さんが立っていた。
田中さんは、偶然だね、と笑うと、俺達の前に腰を下ろす。
「やっぱ叶君ここでトレーニングやってたんだね」
「うん、田中さんともここに来たよね」
「そうそう! 最近体重増えちゃったから、久しぶりに来てみたんだー」
こうやってジャージ姿で田中さんと話していると、昨年の事を思い出して懐かしい気分になる。
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