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 今年、これの金色を手にしたのは、初参加の三年生のチームだった。  校内最強の音痴と書かれたタスキを掛けた男子生徒が堂々とした態度でステージに立ち、スピーカーからは彼の特訓前に収録された念仏のような歌声が流された。  そんな彼が、同じ声で、ビブラートや高音を駆使し腹の底に響くようなオペラを歌い上げた時は、誰もが言葉を失った。  他のメンバーも軽快な話術で会場を盛り上げ、トークの最中も観客の笑い声が止む事は無かった。  正直、彼らが優勝だと言われた時、何の驚きも無かった。  桜木を優勝させるのだと息巻きながら、心の底でとっくに諦めていた自分がいた事に気付き、自分自身に呆れ果てた。  今年は俺達と同じテーマの参加者が多くて、票が分散してしまったのも敗因のひとつだと思うが、それが無くても、暗記した文章をただただ読み上げただけの俺が、彼らに勝てる筈がない。  モデルは問題ないのだから、田中さんの時と同じようにやれば必ず勝てると驕っていた自分が恥ずかしい。  桜木の努力を殺したのは、俺だ。  俺はトロフィーを握り締めたままその場に座り込むと、今まで我慢していた涙をいよいよ堪え切れなくなって、駄々を捏ねる子供のように声を上げて泣いた。     
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