4/32
前へ
/32ページ
次へ
「でも俺は別に、一位になりたいなんて言った事無いよ」 「うぇ……」  ……た、確かに、桜木が、一位になりたいとか、順位に関して何か発言した事は、無い、かもしれない。  表彰式の時は魂が抜けていて記憶が曖昧だが、トロフィーを受け取る時の桜木は、表情が表に出にくいとしても、特に嬉しそうでも悔しそうでも無かった気がする。どうでも良さそう。その言葉がしっくり来る。  元々興味が無いのに俺が無理矢理誘った訳だし、辛い五ヶ月間を耐えるくらいのヤル気はあっても、順位に一喜一憂するまでの情熱までは無いという事か。  今更になって、桜木と俺の熱量が桁違いに違っていたのだと気付く。  俺がこんなに悔しいのだから、一緒に頑張って来た桜木も悔しいのだと頭から決め付けていた。  二位の宣告を受けて俺が絶望していた時に、桜木は「今日の夕御飯なにかな」的な事を考えていたのかもしれないと思うと、馬鹿みたいに泣きじゃくってしまった自分がいっそ笑えてくる。  羞恥心が噴き出して、一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたかった。  動転しながら立ち上がろうとした俺を、桜木の手が静止する。先程よりも近い距離に桜木の顔が迫っていて、ぐ、と息を飲んだ。 「俺は叶が嬉しいなら、それが一番嬉しいよ」     
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加