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「……う、嬉しいよ、すごく。……トロフィー、あ、有難う」
「ふふ、鼻水出てる」
桜木は穏和な微笑みを見せると、ジャケットのポケットから取り出したハンカチを持って俺の鼻を摘む。
汚れるから良いって、と、その手を慌てて振り払うと、代わりに桜木の顔が近付いて来て俺の唇を食んだ。
いつもと違う、ねっとりと絡み付くようなキスに、ぞわりと体が震える。
「あ……、桜木……、わっ」
口を開いた瞬間に、唇の隙間から生暖かい物体がずるりと口内に侵入して来た。
経験した事の無い感触に驚いて思わず歯を閉じてしまい、桜木が、痛いっと小さな悲鳴を上げた。
「ご、ごめんっ……、てか、いきなり、そういう事するから……」
「そっか、ごめん。じゃあ舌入れるけど、噛まないでね」
「えっ、い、いや、ちょっと、待っ……、こんな所でっ、人に見られるからっ、嫌だ……っ」
俺に抱き着こうとする桜木の体を精一杯押し返す。
文化祭が終わってから二時間近く経っているとは言え、校舎の中から完全に人影が消えた訳では無い。
階段を上り下りする足音、楽しそうな笑い声。頻繁では無いにせよ、人の気配を感じる瞬間は何度もあった。
「……じゃあ、そっち入ろ」
「えっ、えぇっ」
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