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珍しく不機嫌そうに語尾の伸びた声が、桜木の口から漏れた。
「昨日、お前と彼女が二人で一緒にいる所見たんだよ! こっちは手を繋いでる所もちゃんと見てんだからなぁ!!」
えぇっ!? と驚きの声が飛び出しそうになり、慌てて唇を噛んだ。
桜木が人前でそんな大胆な行動をするとは思えない……と、心の中でフォローしようとして、ハッとした。
でも、桜木、電車の中だろうが街のど真ん中だろうがキスしようとしてくるし、セックスだって、近くに人の気配がしようとお構い無しだ。まさかそんな事を、女の子にもしていたのだろうか。
桜木の相手は自分だけ、という妙な固定観念があったので、俺の知らない桜木がいるのかと思うと、何だかとてもショックだった。
詰め寄られた桜木はすぐに否定も肯定もせず、考え込むように視線を伏せてから、あぁ、と呟いた。
「彼女って、二年生の子? 街中でいきなり声を掛けられて、ファンだから握手してくださいって頼まれたから、握手してあげただけだよ」
「ご、誤魔化すんじゃねぇよ!!」
「彼女がそう言ったの? 俺と手を繋いだって」
「そんなの……っ、き、聞いたって正直に言う訳ねぇだろ……!」
前のめりに吠えていた男子生徒の姿勢が、わずかに揺らぐ。
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