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彼女にも同じ事を言われたのか、それともちゃんと確認を取っていないのか、気まずさの混じり始めた彼の顔を見て、俺は桜木の無罪を信じる事にした。
こんな勢い良く乗り込んで来た手前、引き下がり辛いんだろうな。
でも、桜木なら穏便に済ませてくれるだろうという信頼があったから、心配はしていなかった。
しかし、桜木の眉間には尚も深い皺が刻まれており、蔑むように細められた視線に、えっ、と不安が過ぎる。
「あれが仲良く手を繋いでいるように見えたなんて面白いね。その目は節穴なのかな」
「なっ……!!」
桜木の挑発するような言葉に、辺りが、しん、と静まり返った。
冷静さを取り戻し、ようやく落ち着き始めていた男子生徒の眉尻が、再び怒りの猛火によって押し上げられた。
しかし一度は冷静になった事で周りから向けられている視線に気が付いたのか、彼は堪えるようにぐっと唇を噛んだ。
彼は近くにあった椅子に怒りをぶつけると、そのまま桜木に背を向ける。
「お前あんま調子乗ってんなよ! 痛い目見ても知らねぇからな!」
男子生徒はそう吐き捨て、教室から立ち去った。
教室の中にはしばらく重苦しい沈黙が漂っていたが、十秒もしない内に普段通りの騒がしさが戻って来る。
一度は桜木から離れた女子生徒達も、なにあいつ、と不快そうに教室の出入り口を睨みながら桜木の元へと再集結した。
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