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「おい、加賀谷」
無意識に立ち上がっていた瑛司の袖を横から羽田が引っ張った。しかし瑛司はその腕を払い、円周率でも読み上げるかのように淡々と言葉を続けていた亮一郎を睨み付けた。
「SPはマルタイを守るのが使命だ。その第一義を曲げているようにしか思えない」
亮一郎は瑛司を睨み返すかと思われた。が、切れ長の目がすっと細められるや、その眼差しにはよく吠える犬を呆れて見下す哀れみのようなものがよぎった。
「それはあなたに襲撃者を射殺してまでも警護対象者を守る覚悟がないということですか」
「……はあ!? なんでそうなるんだよ!」
「仮に犯人の命を奪う結果となったとして、その責任を負えない、とあなたは言うわけですね」
「誰もそんなこと言ってねえだろ! 射殺を前提とするのがおかしいって言ってるんだ」
亮一郎に詰め寄ろうとして腰が当たった机ががたりと動いた。
「加賀谷!」
柿生から鋭い声が飛んだ。柿生の力強い目が瑛司をまっすぐに見つめる。
「いくら異を唱えようと、すでに決定されたことだ。警備部の方針に同意できないなら……」
柿生は途中で言葉を切ったが、続きは容易に察せられた。
同意できないなら、SPを辞めろ。
瑛司がどれだけSPに対して思い入れがあるのかをよく知る柿生だからこその言葉だった。そう言われてしまえば瑛司には反論ができない。
奥歯を噛みしめ、怒りに震えようとする体を拳を握って耐えながら座り直す。淡いグレーの何もない机をただ目に映しながら、瑛司は悔しさに腹の底が煮える思いだった。
亮一郎は瑛司を無視し、机に置かれていた艶消し黒のハードケースを引き寄せ、開けた。
「まずは装備を刷新します。防弾ベストは従来のアラミド繊維製のものから超高分子量ポリエチレン繊維製に変更されます。これは従来品よりも防弾性に優れており、薄く軽いため、迅速な行動を可能にします。次に使用する拳銃ですが、新たにグロック社製グロック19、グロック30、グロック42の採用が決定されました。本日より試射を開始しますので、各自自分に合ったものがあれば変更申請を出してください。また試験的にH&K、G36アサルトライフルを導入します。本日私が使用したものです。こちらの配備は検討中ですが、試射は可能ですので拳銃だけでなくライフルの構造にも慣れておいてください」
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