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その結果、瑛司は渋々高円寺の自宅にひとりで帰宅したのだった。しかし幸いだったのは、夕食と晩酌に付き合ってくれる相手が、非番で寮にいたことだ。
メールにはすぐ返事が来た。そうして、食材が入ったスーパーのビニール袋を持って、交番勤務の巡査がSPのマンションを訪れたのだった。
「それはもう決定事項なの?」
「そ! 同意できなきゃ辞めろときた。だーれが辞めるかよっ!」
瑛司は子供っぽく唇を付き出す。
「兄さんはSP命だもんなあ」
丸顔に柔和な笑顔を浮かべ、優しい声で言った麻琴に、瑛司は気恥ずかしくなる。スウェットのズボンを穿いた筋肉で張った脚を椅子の上であぐらにし、Tシャツの左袖に手を突っ込んで掻きながら、ビールグラスに目を落とす。
「そりゃあまあ……SPになるのが夢だったし、使命感っつうかやりがいもあるし」
「ちょっと、兄さん!」
麻琴は二十八には見えない童顔に心配をあらわにし、テーブルに身を乗り出してきた。
「傷口掻いちゃダメだよ!」
瑛司がぼりぼりやっている腕の包帯を見咎め、麻琴は少しばかりの非難を声に滲ませた。
「擦り傷だって。包帯なんて大げさなんだよな」
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