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瑛司は額に横皺を刻み、細く吊り上がった眉を極限まで八の字にした。
「学校で銃乱射事件とか、制服着たテロリストとか? 考えるだけでうんざりするな」
「もちろん、そんなの起こらなきゃいいと思ってるけど。銃刀法違反の罰則を厳しくしても、どこかで誰かが銃を流してる限り、手にする人はいなくならないから」
瑛司は膝に顎を乗せたまま、空のグラスを手に取った。青い切り子のビールグラスは、麻琴が誕生日に贈ってくれたものだ。刻まれたたくさんの菱形が、白色LEDの明かりの下、繊細な光を跳ね返している。瑛司はそれを眺め、ぽつりと漏らす。
「昔はSPも自分の身ひとつでマルタイを守ってたのにな。銃なんか使わずに済むんなら……」
麻琴は薄い茶色の瞳で、自分が警察を志すきっかけになった先輩警官を見つめた。
「兄さんが銃が嫌いなのはよく知ってるよ。でも、相手が発砲してきたなら、反撃は必然だ。襲撃者は標的の命を狙ってる。それを防ごうとする警官を撃つことに、なんの抵抗も良心の呵責もない、そうだろ」
「……そうだな」
今度は瑛司が上目になって若い巡査を見上げた。出会ったとき十六歳だった若者は、立派な警官になっている。警官になったからこそ、瑛司が対峙する危機がどんなものかがわかるのだ。
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