第4章

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 今、自分は、亮一郎とひとつになっている。自分を愛したいと望み、愛されたいと望む、唯一の存在と、深く深く繋がっている。盾にすることでしか存在を信じられなかった自身の肉体が、まったく違う方法で、これ以上ない実在を瑛司に教えている。  抱かれる、ということ。腕に強く抱き締められ、全身を使って求められ、唯一体内へと相手を迎え入れられる場所を愛されている。  知らなかった、こんな感覚。こんな感情。満たされている。今、自分は初めて、からっぽだった内側に熱く脈打つものを受け入れて、いっぱいに満ちている。  からっぽじゃない自分、なんてものがこの世にあると思ったこともなかった。いつだって心は孤独で、仕事に……使命と信じるものに打ち込んでも、かりそめの満足感に浸ることしかできなかったのに。  信じられない……これは奇跡だ。奇跡としか言いようがない。十二年前のあの出会いが、この瞬間に繋がっている。長い時間と苦しみと孤独感の果てに、瑛司と亮一郎を、深く深く繋げている。
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