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加賀谷瑛司は見た。ガラスが割れ落ちた壁一面の窓の外に、ザイルを握ったたったひとりの男が素早く降下してきたのを。外務大臣主催のパーティー会場を襲撃したテロリストとの交戦中、瑛司は思わず三白眼を見張り、声を上げていた。
「SAT……いや、SPなのか!?」
驚いたのは瑛司だけではなかった。警視庁警備部警護課の人間にとって、よく見慣れた濃紺のスーツ、その襟に一瞬輝いた、SPのバッヂ。SPが降下突入なんて聞いたこともないが、ただひとり広間の中央に飛び出てテロリストの囮となっていた瑛司にとって、誰であれ救いの手だった。
コン――。
スーツの若い男は外から何かを投げ入れた。小さく高い金属性の音が、しかし銃声と銃声の間を刺し通すようにして、ホテルの広間にいた全員の耳に響き渡った。と、ブシュッとガスが噴出する。白い煙幕が猛然と室内を覆い始めた。
テロリストは一斉に銃口を向ける。だが男はマシンガンの掃射よりも早く、窓枠を蹴ってその場から空に逃れた。たった今まで男がいた空間を銃弾が切り裂く。ザイル一本を頼りにして振り子の宙側の頂点に到達した男は、反動でホテル側に身を返しながら、手にしていたアサルトライフルのトリガーを引いた。
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