第1章

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 もうもうと渦巻く白煙の中を一直線に赤いライトが走る。それは赤外線照準器の光だ。そう思った瞬間には高い銃声が上がり、光が到達した標的、瑛司に向かってサブマシンガンを構えていた二人目のテロリストは、左側から車に撥ねられたかのように横向きに吹き飛んでいた。  銃声と宙に舞う人体が、ほんの一瞬、血の染みのように刻まれた記憶を瑛司の脳裏に閃かせた。瑛司を守ろうとして撃たれた父親の姿。  だがまばたきひとつで瑛司はその映像を消し去った。意識を目の前に集中させる。  銃弾を食らった男は、倒れたままぴくりとも動かない。あのスーツの男の仕事だ。さらにもう一発、銃声が上がった。くぐもった男の悲鳴が白煙の中に聞こえてきた。  三人目のテロリストを撃ったライフルの残響が、オォォン……と尾を引き、やがて消えた。   それ以上銃声は起こらなかった。その場で聞こえるのは、パーティー参加者の悲鳴や泣き声、広間の外からの怒鳴り声だった。ドアが開かれ、警官隊が突入してくるのが見える。 「加賀谷! 無事か!」  インカムではなく直接、柿生係長が瑛司に呼びかけた。振り向くと、いまだニューナンブM60を構えた姿があった。  役目を果たしたとばかり、煙幕は割れた窓から吹き込む風に霧散しつつある。その中に柿生に続いて羽田高明の熊のような巨躯、若林綾のモデル並みのスレンダーな姿態が現れた。一番年若い横越海人が茫然自失の外務大臣の肩を支えている。
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