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青年は一ミリも表情を変えぬまま、淡々と言い切った。
唐突に思える言葉に、瑛司は呆気に取られた。思わぬ展開に困惑し、しどろもどろ弁解した。
「そ、それは、あれだ、犯人ったって射殺までは」
まだ握られたままの手が、急に具合悪く思えてくる。さりげなく離そうと軽く引っ張ってみるが、青年は力を緩める気配がない。黒々とした目が明らかな苛立ちを孕んだ。
「我々SPが気にかけるべきは保護対象者であり、襲撃者ではありません。犯罪者に情けをかけて保護対象者を危険にさらすようではSPとして適性があるとは言えないと思いますが」
「……誰がSPの適性がないって?」
高揚、戸惑いと移り変わってきた瑛司の胸の内が、突如地雷を踏まれて爆発炎上した。
言葉の割に握られたままだった手を、瑛司は力任せに振り払った。青年の形のよい眉がかすかに歪み、眉間に薄く皺を刻む。
瑛司は青年を射殺す勢いで睨み付ける。元々目付きが悪いと言われる三白眼が怒りに燃えた。
「俺がいつマルタイを危険にさらしたよ! 今日だって守り通した! これまでどれだけの人数守ってきたと思ってんだ、俺はSPとしての自信も実力も実績もある! 任務記録を調べてから言いやがれ!」
「あなたの無謀な行動が一部のVIPから絶大な支持を受けていることは知っています。しかしそれは自分が置かれた状況を理解できず被害が及ぶことはないと思い込んだ人間がアクション映画のヒーローを間近で見物できたと喜んでいるに過ぎない。警護で不測の事態が起こったとき警護対象者よりも先に危険に晒されるのはあなただ。それがわかっているんですか!」
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