464人が本棚に入れています
本棚に追加
「待った待った待った、おまえら、ここでケンカするな!」
至近距離で睨み合い、今にも殴り合いそうなふたりの間に、あわてて柿生が割って入った。
「襲撃から生還したと思ったら仲間内で殺し合いとかやめてくれよ」
物騒な冗談を言いつつ、柿生は目尻に湛えた笑い皺を深くしながら、なだめるように瑛司の肩をぽんぽんと叩いた。
「加賀谷が優秀なSPであることは皆が知ってる。どれだけこの仕事に誇りを持ってるかもな」
それから青年に向き直り、高い頬骨を一層高くして笑顔を作った。
「君には驚いたよ、あの登場、確かな狙撃、特殊部隊も顔負けだ。聞いていいか、SPバッヂも着けてるし君も警護員なんだろうが、今日は俺たち第五係の任務のはずだったんだが」
青年は瑛司に向けていた険しい眼差しの目を幾分なごませ、と言っても感情を覗かせない無表情に、柿生に向かって揃えた右手の指先を額に付ける敬礼をした。
「失礼しました。本日より警視庁警備課警備第五係に配属になった瀬名亮一郎警部です」
「警部……!」
瑛司たちの間に驚きが走った。
係長の柿生は四十三で警部だが、三十八になる瑛司と羽田は警部補、三十一の綾と二十五の横越は巡査長だ。階級社会の警察組織にあって、瑛司はこの腹立たしい男の格下となる。
しかし疑問はあった。二十五、六にしか見えない亮一郎が警部ということは、いわゆるキャリア組だ。だが、国家公務員一種試験を突破したキャリアは幹部候補であり、現場に出ることはほとんどない。亮一郎の特殊部隊のような動きは、そのイメージと相容れないものだった。
最初のコメントを投稿しよう!