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「悠里、悠里!」
「陽の姫様、お待ちくださいませ。ここは陽の姫様が来るような場所では」
「邪魔よ、どきなさい!」
扉が勢いよく開かれ、陽の姫が部屋へと踏み込んできた。
突然現れた来訪者に驚いたのか、月蒼蝶は月華の指先から離れ闇の中へとまぎれ消えて行く。
凄まじい形相を浮かべ、陽の姫がまっすぐに月華の元へ歩み寄ると、大きく右手を振り上げ月華の頬を叩いた。
「男を拐かす穢らわしい女!」
叩かれた頬に手をあて、月華は静かに陽の姫を見つめ返す。
「何よその目。ほんとうのことだわ!」
陽の姫は月華の側らに立つ悠里に視線を向け、胸に飛び込んで抱きついた。
「よく聞いて。悠里は騙されているの。この女は娼婦なのよ。だから、こんな女など放って私の元へ来て」
胸にすがりついてくる陽の姫の肩を、悠里はきつくつかんで引きはがした。
「悠里……」
拒絶された陽の姫は、茫然として悠里を見つめ返す。しかし、すぐにまなじりをつりあげ悠里を上目遣いで睨む。
「どうして? どうしておまえは私のものにならないの! こんな女のどこがいいの? 私がこの女よりも劣るというわけ!」
怒りの感情とともに、陽の姫の手が悠里の頬めがけて振り上げられた。けれど、その手を背後から月華につかみ取られる。
「おやめください。陽火様」
月華の瞳の奥深くに沈殿する怒りの炎に、陽の姫は威圧され顔を引きつらせた。
「何よその目……おまえも、その男も許さないから! この私に逆らったことを後悔させてあげる。覚えておくことね!」
と、吐き捨て部屋から去ってしまった。
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