1 二人の姫

3/5
132人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
 部屋に静けさが満ちる。  窓から涼とした風が流れ、部屋に停滞していた息苦しいほどの熱気を拡散する。  月華はゆっくりと身を起こし、床に投げ捨てられていた夜着を拾って肩に羽織ると、窓辺に腰をかけ夜空の月を見上げた。 「雨が降らないのは私のせい……」  朱珂の国には二人の姫がいる。  一人は陽の姫。  多くの男たちにかしずかれ常に太陽のように笑う姫。  陽の姫が笑えば朱珂の国には暖かい陽射しが降り注ぐ。  もう一人は陰の姫。  ほとんど人目に触れることなく王宮深くに囚われ、男たちの慰みものとなる姫。  陰の姫が涙を流せば、朱珂の国に恵みの雨を降らせ大地を潤すといわれていた。  しかし、いつしか陰の姫である月華が涙を流さなくなり、朱珂の国に降る雨が減ってしまった。  このままでは作物は枯れ、国が危機的状況に陥ってしまうと危惧した朱珂の王は、毎夜のごとく月華の元に男を送った。  月華に涙を。  その手段は問わないと、男たちに命じて。 「私が涙を流さないから」  呟いて月華は窓の縁に身をもたれ、ゆっくりとまぶたを閉じた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!