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部屋に静けさが満ちる。
窓から涼とした風が流れ、部屋に停滞していた息苦しいほどの熱気を拡散する。
月華はゆっくりと身を起こし、床に投げ捨てられていた夜着を拾って肩に羽織ると、窓辺に腰をかけ夜空の月を見上げた。
「雨が降らないのは私のせい……」
朱珂の国には二人の姫がいる。
一人は陽の姫。
多くの男たちにかしずかれ常に太陽のように笑う姫。
陽の姫が笑えば朱珂の国には暖かい陽射しが降り注ぐ。
もう一人は陰の姫。
ほとんど人目に触れることなく王宮深くに囚われ、男たちの慰みものとなる姫。
陰の姫が涙を流せば、朱珂の国に恵みの雨を降らせ大地を潤すといわれていた。
しかし、いつしか陰の姫である月華が涙を流さなくなり、朱珂の国に降る雨が減ってしまった。
このままでは作物は枯れ、国が危機的状況に陥ってしまうと危惧した朱珂の王は、毎夜のごとく月華の元に男を送った。
月華に涙を。
その手段は問わないと、男たちに命じて。
「私が涙を流さないから」
呟いて月華は窓の縁に身をもたれ、ゆっくりとまぶたを閉じた。
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