1 二人の姫

4/5
133人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
 ころころと軽やかに笑うその声に、月華は顔をあげ眩しさに目をすがめた。  いつの間にか窓辺にもたれたまま眠ってしまったらしい。  すでに太陽は空高くへと昇り、明るい陽射しが月華の顔を照らす。  鉄格子の向こう、色鮮やかに咲く季節の花が植えられた庭園に、一人の少女が無邪気に蝶を追いかけ、はしゃぐ姿が目に飛び込んだ。  毎日のように離れの庭園にやって来る少女。  彼女こそ朱珂の国のもう一人の姫、陽の姫であった。  さらに、彼女の背後に従う、数十人の見目麗しい男たちの姿。  目を奪われるほどの華やかな集団だ。 「陽の姫様、あまりはしゃいでは転んでお怪我をなさいますよ」 「陽火様、足下にお気をつけくださいませ」  彼女をとりまく男たちが口々に陽の姫に気遣いの言葉をかけ、如才なく立ち回る。  蝶を追いかけていた陽の姫は、裾のひろがった着物をふわりとひるがえし、ふふ、と笑って男たちをかえりみる。 「ねえ、おまえたちは月蒼蝶(げっそうちょう)を見たことがあって?」  陽の姫の唐突な問いかけに、男たちは互いに顔を見合わせ、いいえ、と首を振る。 「月蒼蝶はそう簡単に目にすることのできない、幻の蝶ですゆえ」 「特別な条件が揃って、初めてその姿を見せるとか」 「それどころか、月蒼蝶はこの世の蝶ではなく、死神の遣いの魔蝶と呼ばれているとも……」  などと、男たちのいうことは様々であった。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!