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ころころと軽やかに笑うその声に、月華は顔をあげ眩しさに目をすがめた。
いつの間にか窓辺にもたれたまま眠ってしまったらしい。
すでに太陽は空高くへと昇り、明るい陽射しが月華の顔を照らす。
鉄格子の向こう、色鮮やかに咲く季節の花が植えられた庭園に、一人の少女が無邪気に蝶を追いかけ、はしゃぐ姿が目に飛び込んだ。
毎日のように離れの庭園にやって来る少女。
彼女こそ朱珂の国のもう一人の姫、陽の姫であった。
さらに、彼女の背後に従う、数十人の見目麗しい男たちの姿。
目を奪われるほどの華やかな集団だ。
「陽の姫様、あまりはしゃいでは転んでお怪我をなさいますよ」
「陽火様、足下にお気をつけくださいませ」
彼女をとりまく男たちが口々に陽の姫に気遣いの言葉をかけ、如才なく立ち回る。
蝶を追いかけていた陽の姫は、裾のひろがった着物をふわりとひるがえし、ふふ、と笑って男たちをかえりみる。
「ねえ、おまえたちは月蒼蝶を見たことがあって?」
陽の姫の唐突な問いかけに、男たちは互いに顔を見合わせ、いいえ、と首を振る。
「月蒼蝶はそう簡単に目にすることのできない、幻の蝶ですゆえ」
「特別な条件が揃って、初めてその姿を見せるとか」
「それどころか、月蒼蝶はこの世の蝶ではなく、死神の遣いの魔蝶と呼ばれているとも……」
などと、男たちのいうことは様々であった。
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