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「まさか、これは……この蝶は……」
悠里はうなずく。
「月華の元へと駆けつける途中の庭園で見つけました」
月影に舞うその蝶は、羽から蒼白い光を放ち軌跡を描いて闇に舞う。
おそるおそる虚空へと伸ばした月華の指先に月蒼蝶がふわりととまった。
「月蒼蝶を見た者はひとつだけ願いごとが叶うと。月華は何を願いますか?」
「いいえ! 私などにはもったいない。それに、この蝶を見つけたのは悠里です。だからどうか、悠里の願いを叶えてください」
しかし、悠里は否と首を振る。
「月華の願いが叶うこと。それがわたしの願いでございます」
言って、目元を和らげ悠里は微笑む。
けれど、悠里の瞳がどこか悲しげに揺れたように見えたのは何故か。
落ちた沈黙に、まるで、時が止まってしまったかのような錯覚さえ覚えた。しかし、穏やかで静寂な時は部屋の外から響く叫び声によって再び刻み始める。
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