7 月影に舞う蝶

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「月華?」  見つめてくる悠里から逃れるよう、月華は静かに視線を外す。 「陽の姫様が言ったことは、ほんとうです」  悠里に背を向け、月華はさらに言葉を継ぐ。 「父である国王と私の母がどのような出会いをし、結ばれたのかは私は知りません。が、私の母は朱珂の色街の娼婦でした」  悠里に背を向けたまま、月華は淡々と語り始めた。  王と正妃の間に世継ぎの姫、陽火が生まれた。しかし、時を同じくして王の寵愛を一身に受けていた側室にも娘、月華が誕生した。王は月華を大変可愛がり、正妃はそれを激しく嫉妬し、そして恐れた。  側室との間に生まれた子が己の子を退け、世継ぎになることを。  そこで、正妃は側室、つまり月華の母を秘密裏に殺害。  残された幼い月華を王の反対を押し切り王宮深くに閉じ込めてしまった。しかし、それだけでは正妃の気はおさまらず、彼女は月華にさらに過酷な運命を突きつけた。  王の心を盗んだ月華の母は元娼婦。  ならばその娘にも母と同じことをさせようと、年頃になった月華のもとに次々と男をあてがった。  陽の姫が笑えば太陽が注ぎ、陰の姫が泣けば雨が降る。  月華に向ける正妃の悪意にもはや王もどうすることもできず、王が世間体を取りつくろうために作り上げた嘘であったと。 「悠里、お願いがございます」  月華の黒い瞳がまっすぐに悠里を見上げる。  その瞳の奥には切実な思いが揺れていた。 「私を抱いてください」 「何を……」  悠里は言葉をつかえさせた。
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