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長い一日がようやく終わりを告げようとしていた。
部屋に現れた侍女の手には白い夜着。
今宵も見知らぬ男が私に涙を流させようと、この部屋に来ることを悟る。
夜着に着替えた月華は寝台の端に腰をかけた。
ほどなくして、侍女の無言の案内とともに、部屋に一人の青年が現れる。
二十歳を少し過ぎた、すらりとした長身に均整のとれた身体つき。
端整な顔だちの若者であった。
どこかはわからないが、おそらく、この国の者ではない異国の者。
戸惑いの表情を浮かべ扉の側で所在なく立ち尽くす青年の前で、月華はためらうことなく夜着の帯に自ら手をかけた。
白い薄布が月華の肩からするりと滑り足元に落ちる。
差し込む月明かりが月華の素肌を舐めるように、蒼白く照らす。
「ま、待って! お待ちくださいっ……」
男はひどくうろたえた様子で視線を斜めにそらし、声をうわずらせた。
月華は不思議そうに小さく首を傾げる。
「確かに、陰の姫様のお相手をするようにと命じられましたが……」
男はそんなつもりは決してないのだと首を振り、ゆっくりと月華の元へ歩み寄る。月華の足下に落ちた夜着を拾いあげ、男は己の指先が少女の肌に触れないよう、そっと肩に羽織らせた。
かけられた夜着を胸の前でかき合わせ、月華は驚いた顔で男を見上げた。
男はふわりと優しい微笑みを口許に浮かべる。
「お風邪を召されます」
静かで穏やかな声が耳元に落ちる。
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