2 旅の楽士

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 何故?  ここへやってくる男たちは誰もかれもみな、自分の身体を貪り、玩具のように弄ぶのに。  何故、あなたは私に優しくしてくださるの? 「わたしは旅の楽士でございます」  そう言って、男はここへ連れて来られるまでの経緯を語った。  楽士として各地を旅する男は、たまたまこの朱珂(しゅか)の国に立ち寄った。だが、突然、複数の兵士に囲まれ、なかば無理矢理この王宮に連れてこられたのだという。  いったい、何がなんだか……と、首を傾げる男に月華は眼差しを落とす。  おそらく理由などない。  異国の者という物珍しさから、単純に目をつけられてしまっただけなのだろう。  陰の姫の相手をさせるにはちょうどいいと。 「ええと、少しお話をしませんか?」  男の手によって窓辺に導かれ、椅子に腰をかける。 「わたしの名は悠里です」 「ゆうり?」  青年は月華の手をとり、手のひらになぞるように自分の名を綴った。 「悠里」  はい、と悠里と名乗った男は人懐こい笑みを浮かべる。 「月華……」 「月華様……美しい名ですね」  月華の瞳にわずかな動揺が走る。  名を褒められるなど、生まれて初めてのことであったから。  気恥ずかしさに視線を落とした月華の目が、男の腰に下げられた横笛にとまる。
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