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何故?
ここへやってくる男たちは誰もかれもみな、自分の身体を貪り、玩具のように弄ぶのに。
何故、あなたは私に優しくしてくださるの?
「わたしは旅の楽士でございます」
そう言って、男はここへ連れて来られるまでの経緯を語った。
楽士として各地を旅する男は、たまたまこの朱珂(しゅか)の国に立ち寄った。だが、突然、複数の兵士に囲まれ、なかば無理矢理この王宮に連れてこられたのだという。
いったい、何がなんだか……と、首を傾げる男に月華は眼差しを落とす。
おそらく理由などない。
異国の者という物珍しさから、単純に目をつけられてしまっただけなのだろう。
陰の姫の相手をさせるにはちょうどいいと。
「ええと、少しお話をしませんか?」
男の手によって窓辺に導かれ、椅子に腰をかける。
「わたしの名は悠里です」
「ゆうり?」
青年は月華の手をとり、手のひらになぞるように自分の名を綴った。
「悠里」
はい、と悠里と名乗った男は人懐こい笑みを浮かべる。
「月華……」
「月華様……美しい名ですね」
月華の瞳にわずかな動揺が走る。
名を褒められるなど、生まれて初めてのことであったから。
気恥ずかしさに視線を落とした月華の目が、男の腰に下げられた横笛にとまる。
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