夢の人

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 始めは面白がってさまざまな人の夢を見ていたがすぐに飽きてしまった。夢を知ったところで意味はあるのだろうか、と思えてきたからだ。そもそも相手が夢をおぼえていないことだってあった。  したがって唯一楽しめたのはトライ・エラーの部分のみで、その後は何の役にも立たない、単なる暇つぶし以下のものとなった。      しかし気持ちは変わるもので、今では夢を見続けたいと思っている。もちろん、気持ちの変化には理由も経緯もある。  ことの始まりはバイト先で起こった。  大学に入学して程なく、僕はバイトを始めた。  少々離れた大学に進学したため一人暮らし。親から学費を払ってもらい、仕送りもあるためお金に困ることは無かった。  慎ましく生活していればバイトをする必要なはかったのだが、登山サークルに入ったことをきっかけに、道具・旅費等がかさむようになりアルバイトを始めた。 バイト先は大学から程近い場所にある駅付近のビジネスホテル。時間に融通が利くことと、大学の知り合いに会うことも無いだろうと思いここを選んだ。  始めはフロント専属で、チェックインが多くなる平日夕方から夜にかけての時間を行っていた。半年、一年と続けていると土日や午前中の仕事、ベットメイクや浴場の清掃とさまざま事を任されるようになってきた。  大学二年の秋口。紅葉が色づき始めたため、どの山に行こうかとサークルメンバーと話し合いをしていた時期にバイト先の店長から声をかけられた。 「お疲れ様、国川君。突然で悪いんだけど金曜日からしばらく夜勤やってみないかな?」  突然呼ばれたことにも、夜勤を頼まれたことにも驚いた。バイトを始めてから数回の夜勤は行ったことがあるが、それ以来断り続けていた。  断り続けたのは主に夢のせいだ。あのころはまだ自分とはまったく無関係の夢を見るのが恐ろしかった、寝るたびにまったく知らない人たちがさも当たり前のように出てくる。特に夜勤中に見る夢は毎回のごとく知らない人が多数出る夢ばかりだった、その上で悪夢を見たときの気分は最悪だ。あまりに多種多様の夢を見るので、夢の中では自分が自分で無いようにも思えた。知らない夢に取り込まれ、自分がなくなり二度と目覚めないのでは、と思えるほどの恐怖があった。
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