夢の人

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 しかし、今では他人の夢を見ていると分かっているので割りきれる部分がある、まったく知らない人が見ている夢だと分かれば恐怖も薄らぐ。夜勤自体はそれほど忙しいものでもなく時給も上がる、ちょうど新しいザックとトレッキングシューズが欲しくなって来たところだ。断る理由は無かった。 「大丈夫ですよ。」 「よかった、それじゃあ今週と来週の金曜・土曜の夜勤をお願いしてもいいかな。」 「分かりました。久しぶりですけど大丈夫ですかね?」 「それほど前と仕事も変わってないし、大丈夫だよ。一応相方は全部水口君だから、分からないことがあったら聞くといいよ。」  そう言って店長は仕事に戻っていった。  水口は僕の一つ下、バイトでは僕のほうが2月ほど先輩だ。日勤で時々一緒になり、話しも合うため気楽に仕事ができる。いいタイミングで夜勤に入れたなと、心から思えた。  夜勤一日目、宿泊客数は14名だった。 「早めに食堂の掃除に入りますので、国川さんフロントお願いします。落ち着いてますし、やれる事終わらして眺めに休憩はいりましょうか。」 「いいね、了解。」  水口は足早に食堂へ入っていった。  こんな感じだったかな、と思えるほど夜勤はあっさりしていた。もともと小さいビジネスホテルなので全室埋まっても30名ほど。夜になると客も寝るため、ほとんどは清掃とフロントでの電話対応ぐらいだ。もっとも、0時を過ぎるとフロントへの電話もほとんど来ることは無いらしい。宿泊名簿整理、帳簿計算も終わってしまったため、いよいよする事が無くなってきた。フロント付近から離れることも出来ないので、二度目となるフロントロビーの清掃を始めた。  日中とは違う雰囲気であった。有線放送は切られ、証明も少し薄暗く落としてある。空調の音が一定のリズムを刻んでおり、人が少ないためかほんのり肌寒くも感じる。見慣れたフロントロビーであるが、気にしたことも無かったテーブルや花瓶の位置が気にかかる。部屋は落ち着いているが、自分は何かそわそわしてしまう雰囲気だった。 「あのー。」  テーブルを拭いていた時、不意に後方から声をかけられた。少々驚きもしたが、平然を装いながら振り返った。そこには申し訳なさそうな顔をした中年の男性が立っていた、ここに泊まっている客だ。
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