夢の人

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「どうされましたか?」 「部屋のティーパックを飲みきってしまって、もう少し欲しいのですがよろしいですか?」  どうやらアメニティのお茶がなくなったらしい。電話で持ってきてもらう人がほとんどなので、直接来るのは珍しく思えた。 「分かりました、すぐにお持ちします。お部屋まで届けましょうか?」  客は少し考え。 「それでは部屋までお願いしてもいいですか、407号室の山田です。」  深々と頭を下げたので、こちらも頭を下げる。」 「了解しました、407号室の山田様ですね。お時間十分ほどでお届けにあがりますのでお待ちください。」  そう言うと山田は数回頭を下げながら。階段方面へと歩いていった。  ティーパック少し多めに準備し407号室まで赴く、ドアをノックすると山田が顔を出す。 「お届けにあがりました、緑茶と紅茶をご用意いたしました。また足りなくなったらお申し付けください。」 「ご丁寧にありがとうございます。」  ティーパックを受け取りながら、山田は数回お辞儀をした。  ホテルの浴衣を着ているがそれほどよれてはいない、ちらりとのぞかれた部屋の中は綺麗なままで、ベットも使用していないようだ。テーフルの上に置かれたノートパソコンからまだ仕事をしている最中だと思われた。 「それでは失礼いたします。」  そういってドアを閉める。  フロントに戻りながら、ぼんやりと山田の人物像を描いていた。あの人はずいぶんと腰が低かった、フロントに来たときも他の客に迷惑がかからないよう、音を立てないよう気を使って歩いて来たに違いない。観光に来たようには見えないので明日も仕事があるのだろう、もしかしたら資料作りをしていたのかもしれないな。  フロントにはすでに水口が戻っていていた。 「お帰りなさい、何かありました?」 「アメニティのご所望があったから、ちょっと部屋までね。」  ちらりと時計を見ると1時に差しかかろうとしていたところだった。 「休憩にしましょうか。先に行きますか?」  水口が口を開く。 「後にしようかな、まだやりたいこともあるんだ。」 「分かりました、それじゃあお先に休憩いただきます。」  休憩室に入っていく水口を見届けてから、フロントの掃除を再開する。
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