0人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうされましたか?」
「部屋のティーパックを飲みきってしまって、もう少し欲しいのですがよろしいですか?」
どうやらアメニティのお茶がなくなったらしい。電話で持ってきてもらう人がほとんどなので、直接来るのは珍しく思えた。
「分かりました、すぐにお持ちします。お部屋まで届けましょうか?」
客は少し考え。
「それでは部屋までお願いしてもいいですか、407号室の山田です。」
深々と頭を下げたので、こちらも頭を下げる。」
「了解しました、407号室の山田様ですね。お時間十分ほどでお届けにあがりますのでお待ちください。」
そう言うと山田は数回頭を下げながら。階段方面へと歩いていった。
ティーパック少し多めに準備し407号室まで赴く、ドアをノックすると山田が顔を出す。
「お届けにあがりました、緑茶と紅茶をご用意いたしました。また足りなくなったらお申し付けください。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
ティーパックを受け取りながら、山田は数回お辞儀をした。
ホテルの浴衣を着ているがそれほどよれてはいない、ちらりとのぞかれた部屋の中は綺麗なままで、ベットも使用していないようだ。テーフルの上に置かれたノートパソコンからまだ仕事をしている最中だと思われた。
「それでは失礼いたします。」
そういってドアを閉める。
フロントに戻りながら、ぼんやりと山田の人物像を描いていた。あの人はずいぶんと腰が低かった、フロントに来たときも他の客に迷惑がかからないよう、音を立てないよう気を使って歩いて来たに違いない。観光に来たようには見えないので明日も仕事があるのだろう、もしかしたら資料作りをしていたのかもしれないな。
フロントにはすでに水口が戻っていていた。
「お帰りなさい、何かありました?」
「アメニティのご所望があったから、ちょっと部屋までね。」
ちらりと時計を見ると1時に差しかかろうとしていたところだった。
「休憩にしましょうか。先に行きますか?」
水口が口を開く。
「後にしようかな、まだやりたいこともあるんだ。」
「分かりました、それじゃあお先に休憩いただきます。」
休憩室に入っていく水口を見届けてから、フロントの掃除を再開する。
最初のコメントを投稿しよう!