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仕事はほとんど残っていない、あとは時間が過ぎるのを待つだけだ。
掃除も終わり、仕事が無くなる。静かに時間が過ぎる中、朝の仕事を確認したり仕事終わりでどこに行こうかを考えたりして時間をつぶしていた。
フロントの後方で扉が開く音がした。振り返ると数時間前に見た姿の水口が出てきた。気が付けば交代の時間となっていた。
「先休憩ありがとうございました。」
心なしか声はまだ眠そうだ。
「特に何も無かったよ、それじゃあ休憩に入るね。」
休憩室に入る。ソファーとテーブルに冷蔵庫、後は洗面台ぐらいしかない部屋だ。棚から自分のリュックを取り出し目覚まし時計をセットし、制服をハンガーにかけてソファーをベット代わりに横になる。用意されている布団をかけて眠る。
睡魔はすぐに訪れた。うとうとしながらも最後に思っていたことは『誰の夢を見るのだろうか』と期待半分、不安半分だった。
これは夢だ。
他人の夢を見るのもなれたもので、すぐに夢であると理解ができた。
自分は空中に漂っており、体を見ようと思っても自分の姿を見ることは出来ない。他人からも自分の姿は見えておらず、干渉も出来ない。好きな位置や角度から他人の夢を眺める。それだけだ。
ずいぶんとシンプルな夢だ。風景は何も無い白い空間で、人の姿がまばらに見えている。
誰の夢かを見分けることは簡単だ。夢の中で一番動いている人物、中心にいる人物こそが夢を見ている人になる。夢の人物が動きを起こさない限り、他の登場人物はほとんど動くことは無い。
見渡すと一人ひとりに話しかけて回っている人物がいた、山田だ。どうやらここは山田の夢の中のようだ。
「いたいよー」
転んで泣いている女の子がいた、小学生ぐらいだろうか。山田は無言ですりむいていた膝の傷に絆創膏をはり、ポケットから飴玉を出して渡す。
「ありがとう、おじちゃん。」
女の子は先ほどまで泣いていたのを忘れ、笑顔で去っていった。
少し離れたおばあさんに山田が近づくと、その周囲は駅の改札口の風景に変わった。
山田はおばあさんに話しかけ、切符を見せてもらっているようだ。おばあさんの手を引き別の改札口まで一緒に移動する。
「ありがとう、ありがとう。」
おばあさんは数回お辞儀をして改札口を出て行った。
その後も山田は転々と人をめぐりながら何かしらの手伝いをし、感謝されることを繰り返していた。
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