夢の人

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 その後、交代で休憩に入る。すぐ眠りについた。  夢の中。  真っ暗だ。  目を凝らして辺りを見ると、男性が一人立っている。佐紀だ。  夢の中でも佐紀はイライラとしており、夢の中でもこいつを見ないといけないのかとげんなりしてしまう。とりあえず観察を続けていると、風景が変わり国道沿いの歩道となる。  途端、佐紀はガードレールを蹴り飛ばした。冗談のようにガードレールは破れ曲がる。  そんなわけ無いだろう。  半場呆れながら眺めていると、今度は近くにあった鉄の棒でポストを殴り始めた。ポストはまるでダンボールのように曲がり穴が開き、中から大量の茶封筒が零れ落ちた。  その後も佐紀の暴走は続く。鉄の棒を片手に、自転車・自動販売機・電柱と次々に破壊を続け、とうとう人にまで手を出していた。  人は殴られると血を出すことなく倒れこみ、地面に吸収されるように消えていった。  次から次へと人を倒していく、いやな夢だ。  早く目覚めることを祈りながらも佐紀を見ていたとき、ふと思い出される。山田の夢に出てきた人物で唯一無視されていた人、服装・表情は違えどあれは佐紀のように思えた。  まじまじと観察してみると確かにそうだ、二人は知り合いなのだろう。山田の夢の中でスーツを着ていたということは仕事関係なのだろうか。  ここで退屈しのぎにと思考を巡らし、一つの仮定を作ってみた。  山田と佐紀は何らかの仕事で一度顔を合わせているのだろう。佐紀はそこでも山田に対して強く言ったのだろう、それこそ夢に出るほど、記憶に残るほど強烈に。そして山田は夢で佐紀をみる。しかしそこには不満が大きかったのだろう、他者に優しくしようとも佐紀に対しては声をかけたくない、そんな気持ちがあの夢には現れているように思えた。  自分に納得がいくよう勝手な創造をしているうちに、佐紀の暴走は止まっていた。なにも周りには残っておらず、人の姿も無い。鉄の棒を握り締めたまま、佐紀は安心した表情で眠りについていた。  他人のことは考えず、勝手な奴だ。  そう思いながらも、自分が目覚めるまでここに留まっている事しか出来ない。夢の中で動きがなくなったため観るものも無くなる。前半は悪夢のようなもの、後半は退屈。夢の中でも迷惑をかけられているように思えた。
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