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「ほう、そんな人が……お礼の1つでもしたいところだが、その人が誰か分からないのだろう?」
「うん、でも、早く逃げろ!って言われた時、なんかこう、きゅんってしちゃったよね!あれは間違いなくヒーローだよ!」
父さんが姉さんに探りを入れている。でもね父さん、姉さんが言ってるその人物像、当たっているのが最後に言ったヒーローくらいだから、あんまり深く考えないほうがいいよ。
「あんたは朝からのんきでいいねー。愛しの姉が大変な目にあったってのに」
きゅんとした顔から一転、いつもの姉さんらしい、イタズラ顔に戻って、僕に絡み始める。
「まぁ、姉さんなら大丈夫って信頼してるからね。最初は空元気かなとか思ったけど、普通に元気だったから今は全然心配してないよ」
「か、可愛げが毛ほどもねぇ……」
姉さん、僕に、というか男子高校生に可愛げを求めるのは酷だよ。
「ほら刃牙、早く朝ごはん食べちゃいな。学校遅れるよ」
家族とのスキンシップの中、母さんが時計を見ながらそう言う。僕もつられてみると、たしかに少し急がないといけない時間になってきていた。
「ふぁい……ご馳走さま」
ご飯を口の中へかきこみ、食べ終えてから身支度を整える。こういう急ぎの時に、癖っ毛じゃなくてよかったな、と髪を梳かしながら思う。歯を磨いてから、カバンを掴んで家を出る。
「行ってきまーす」
出かける時に、必ずこれをいうのが、僕の家の習慣だ。返事には厳しい家庭である。
学校に着くなり、僕は一躍時の人となった。新聞の三面から目ざとく僕の姉の名を見つけた友人が、みんなに言いふらしたらしい。どんな話を聞いたとか、どんなナイフだったのかとか、なぜか記念に握手してくれとか、僕どころか姉ですらよくわからないだろう質問が矢継ぎ早に飛んできて、解放されたのは放課後もだいぶ経ってからだった。
すごくくたびれたし、僕が不審者に掘られかけたとか言う謎の噂が出てきたのはほんと勘弁して欲しかった。
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