内閣総理大臣 指名後の夜

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内閣総理大臣 指名後の夜

「いやぁ、何とかなりましたね」 公用車の中で秘書官の中林が山形に笑顔で言った。 「ああ、今回は厳しかったな。あの問題がこじれたら危ないところだった」 山形も中林に言う。それだけ山形は今回、自身の汚職のために窮地に立たされていた。 「ところで、原発、いつ全面的に再稼動するんですか?」 「来年頭にでも時期を発表して、できる限り早く再稼動するつもりだよ」 山形は中林に笑いながら答えた。 「……いいんですか?」 「いいも悪いも、国民はバカだからな。すぐ忘れるさ。政権さえ取ればこっちのものだ」 山形は再び笑う。 「それにしても、因果なものですね」 「何だ?」 「あのまこなんたらっていうアイドルですよ」 「それがどうしたんだ?」 「会津若松ですよ。会津。分かりませんか?」 「……なるほど、戊辰戦争か」 山形は少し考えた後二度軽く頷いた。 「そうですよ。あいつらは山口県民がきっと憎いだけなんですよ」 戊辰戦争で会津藩は旧幕府軍側として薩摩藩、長州藩を中心とする新政府軍と剣を交えた。会津藩は新政府軍に手ひどく敗れた。その際に起こった白虎隊の悲劇などは現在にも語り継がれている。この歴史上の出来事は会津地方の人々にとっては重大で、「戦争」という言葉は彼らにとっては第二次世界大戦ではなく戊辰戦争を指す。また、一時期は交際相手が山口県出身だったことが原因で結婚が破談になるというケースが相次いだんだとか。
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