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「では本日の選挙特番の打ち合わせを始めます。よろしくお願いします」
報道番組部デスクの矢口がマイクを持って話し始めた。
「ではまず選挙の大勢を、三橋記者」
矢口はそう言うと三橋にマイクを手渡した。
「はい。結論から申しますと、自滅党は3分の2近くを確保していた議席を減らし、ほぼ半数の議席獲得に留まる見込みです。今回は内閣総理大臣であり自滅党総裁である山形朋紀が自らの汚職疑惑の説明責任を果たさず強引に衆議院を解散したことが有権者の反感を買い、議席を減らしたとみられます。なお、山形は山口県の小選挙区で当選確実の見込みです」
三橋は矢口にマイクを返す。
「ありがとう。では県内の状況を、建石記者」
矢口は建石に今度はマイクを渡した。
「はい。6つある選挙区のうち、3つが自滅党、2つが誹謗の党、1つは民沈党が獲る見込みです。誹謗の党は民沈党の中の一部勢力を取り込むほどの勢いを見せ、大躍進の見込みです。ところで、実は出口調査の結果、妙なことがわかりまして……」
「妙なこと?」
矢口は建石に訊き返した。建石は重い口を開く。
「出口調査の結果、今回、18歳から29歳の層で無効票を意図的に投じた、という有権者が急増したようなんです。下手をすると、例年の5倍以上、この、動きが全国的だとすると、おそらく県内で10万票以上の白票、無効票が入れられたことにはなるかと……」
「そんなに無効票が?なぜだ?」
矢口は建石に驚いた表情を見せる。
「わかりません。恐らく政治不信の表れかと」
「そんなことは分かってる。この動きが起こった直接的な原因を訊いているんだ。いつ、誰が、どんなことをしてこのような動きになったのか。それを調べるのが建石君の仕事だろう」
「は、すみません」
建石は矢口に頭を下げた。
「よし、では建石君は引き続きそっちの調査に当たってくれ。では全員手元の紙を見て下さい。番組の進行はその紙に書かれている進行表の通りです。東京との連絡を密に取りつつやって行きましょう。長丁場になるけどよろしくお願いします」
「お願いします」
矢口の挨拶に合わせて全員が声を揃えた。その後皆各セクションへと戻っていった。
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