投票締切2時間前

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「もしもし。お疲れ。そっちはどうだ?」 建石は大学時代の同期で東京の新聞社に勤める佐竹に電話をかける。勿論、今回の無効票大量発生についての情報を集めるためだ。 「ああ。東京はもっとすごいぞ。都内合計で100万票は超える勢いだ」 どうやら佐竹もこの動きに関心を持っているようだ。 「この件について、なにか情報はないか?」 建石が佐竹に問う。 「ああ、どうも若者の間で幅広い運動になっているようだが、詳しいことはわからない。それと、今回の投票率、かなり上がりそうだぞ」 佐竹が答えた。 「どうしてだ?今回は下がると読んでいたが」 建石が今回、投票率の大幅低下を予想したのには理由がある。今回の解散の結果、どの政党も醜態をさらすのみで、まともな政策の提言はほぼなされなかった。解散の発端は自滅党の山形総裁が自身の汚職疑惑を闇に葬るためのごまかしであり、国民も口には出さないがそれはわかっている。また、民沈党では一部の議員が造反して誹謗の党へ合流し、大きな内部分裂が起こった。造反の理由はもちろん選挙対策。誹謗の党は前回の参議院議員選挙で大幅に議席を伸ばしており、誹謗の党公認の方が選挙に有利と考えたためと見られる。ところがその誹謗の党は経済政策で民沈党と大幅に異なったマニフェストを打ち出している。そのため、民沈党の議員を取り込んだことによる政策の大きなブレが懸念されている。 「無効票が入った分が大幅に投票率に反映されるんだ。どうも全国的な動きのようだからな」 「なるほど。また何か分かったら教えてくれ」 「ああ。その際は連絡する。そっちも頼んだぞ。じゃあな」 「ありがとう」  建石はそう言うと、電話を切った。 「あの…」  建石は振り返る。目に入ったのは送出補助の大谷だった。 「どうしました?」 「ええと、今の件を聞いて、少し気になったことがあるんです」 「何ですか?」 建石は大谷にたずねる。大谷は建石に自分のスマートフォンを見せた。 「なるほど。関係あるかも知れないな。デスクに話してみる。一緒に来てもらえますか?」 大谷は小さくうなずいた。
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