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なだめるようにキスされても、舌先ひとつ応じることなんか出来ない。苦しくて息を詰めると、あっという間に酸欠になった。血中酸素が不足しまくりで、仕方なく浅い呼吸を繰り返す。
「力抜ける?」
無理と答えるのも億劫で、頭を振った。背けた顔の先に、使い切ったハンドクリームのチューブが転がっている。そのひしゃげた使い切った感が、足を上げさせられた今のオレの姿みたいでいやらしく見える。
「素数言ってみて」
「は?」
掠れた声で問い返す。素数と性的体験の何が共通項なのか分からない。浅いところで止まった充郎の胸を、苦しさのあまり押し返すので精いっぱいだ。
「気が紛れるかと思ってさ」
「……んな時に言えるかよっ」
力の入らない拳で胸を叩くが、組み敷く充郎は嬉しそうに頬をニヤけさせるばかりだ。
「千以下の素数を降順で。簡単だろ? 言えない?」
持ち前の負けん気を刺激され、997、991、983と素数を並べ始める。八百を切ったころ、充郎がゆっくりと動き出す。痛くしたら殴るぞとばかりに睨み付けながら、オレは数字を呟いた。
充郎の気持ちよさそうな、たまらなく嬉しそうな顔が、見ていられないくらい恥ずかしい。オレのことを蕩けるような甘い眼差しで見つめてくるからなおさらだ。
「523……521……ばかっ、そこやめろっ……あっ、んんっ」
「次は? ほら言わないと、同じとこもっかい擦るよ?」
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