それから

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 乾杯!の声とともに四つのグラスが掲げられ、ガラスとガラスのぶつかる軽やかな音がテーブルの上に響き渡る。  高校二年の夏に病気療養のため健太がアメリカへ渡って七年。今日、元気な体を取り戻した健太が日本へ帰ってきた。 「久米、おかえり! やっと俺の久米が帰ってきた」 「ありがとう。西條くん」  乾杯前からすでに出来上がっていた西條が、ちゃっかり健太の隣の席を陣取り、健太の腕に自分の腕を絡めている。 「俺、俺さあ、本当に久米が帰ってくるの待ってたんだよ?」 「うん」 「メールだとかで連絡は取ってたけど、やっぱりちゃんと顔を合わせて話せるのっていいよなあ……時差も気にしなくていいし」  そう言うと、酔って目の座った西條が健太の顔を両手で包み込んだ。 「それにしても久米は美人になったよなぁ」 「さ、西條くん?」 「なんだ? 恋をしたら男だってキレイになるのか? 久米、超遠距離だったけどいい恋してたんだな。よかったなぁ、久米……」 「え……っ、ちょっと西條くん、なにを言って」 「今でも覚えてるよ。久米がアメリカに行って半年くらいの時だったっけ……夜中に突然電話がかかってきて、なんか電話の向こうで大泣きしてるし。確か、あれって原因は……」 「ま、待って! 西條くん、ストップ!」  それ以上はやめてくれと慌てる健太のことなどまるで気にする様子もなく、久米……よかったなぁ、と涙ぐみながら西條は健太の頬を撫で始めた。  酔っ払いの相手なんてしたことがない。ましてやその相手は西條だ。  無下に振り払うこともできず、健太はテーブルの向かいにいる稲木へ助けを求めた。  稲木は西條の幼なじみで、ちょうど健太が渡米する頃に付き合い始めた。今は二人で暮らしている。 「久米、悪いな。しかし万里(まさと)のやつ、久米の帰国がよっぽど嬉しかったんだなあ。ほら万里、いい加減やめないか。久米が困ってるぞ」 「んん……有吾? なんだよ、いいだろ。久米に会えるの久しぶりなんだし。久米、大好きー」 「さっ、西條くんっ!」  稲木がやんわりと窘めるが、西條は全く聞く耳を持たない。それどころか「大好き」と言って久米に抱きつく始末だ。 「こら、万里。もう……仕方がないなあ。そんなに久米にばかりくっついてるのを見せられると妬けるんだけど」  健太の肩に頬ずりをしていた西條がぱっと顔を上げる。
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