2章

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「どうしてです?」 「当然だろ。お前は警察官である俺に、法を破れっていうのか?」  そう、条件を受け入れるか入れないかを悩む前に、霧人には厳格に守らなければならない信念がある。 「医師の処方が必要な薬を、医者以外の人間から譲り受けるのは法律違反だ」 「違法、ね。では前回渡した薬はいいんですか?」 「……勿論、あれだっていくら緊急時とはいえ、十分法に反する行為だ。だから……」 「上に申告して罰を受けますか? 貴方、呆れるほど実直ですね。でもその点なら安心して下さい。霧人はイレギュラーな形でオメガになったばかりですから知らないと思いますが、アルファとオメガ間での抑制剤譲渡は場合によって人命救済行為と判断されるので、違法行為にはならないんですよ」  予期せぬ状況でアルファやオメガが発情状態に陥った時、医師の指示を待っていては取り返しのつかない事件や事故に繋がる可能性がある。そのために施行された特別措置法があるのだと愛染は語る。 「特に私たちのような『運命の番』は、そういった規制がより緩くなるので、違法云々に関する心配はご無用ですよ」  だから後は霧人の心次第だ。じわりじわりと逃げ道を奪うように、男が選択を迫ってくる。 「…………それでも、断ったら?」 「別に構いません。たとえ貴方が国の保護下に入ったとしても、関係を繋ぐ方法はいくらでもある。いや、逆にそちらのほうが私としては楽かもしれません。運命の番なら堂々と迎えにいけますからね」  ここで愛染から逃げ、オメガだと告白した上で国に助けを求めたとしても、結局国は世界でも貴重な運命の番の研究ができると諸手を挙げ、愛染に霧人を引き渡すだろう。簡単に予想がつく結末に、霧人は拳をグッと握り締めた 「くっ……」  このまま箱庭の生活に落ちるか、愛染に抱かれながらも刑事を続けるか。考えるが、すぐに答えなんて出るはずがない。  きっと時間を使い思考を巡らせれば、他の解決方法も浮かんだだろう。しかし、残念なことに抑制剤の効果はもうすぐ切れてしまう。  選ばなければいけない。
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