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「お願いだから。もうほっといて」
私はそう呟き、高木を残したまま出口に向かった。
「ナツキ……」
ミノリが花嫁らしかぬ心配した表情でやって来て、私に囁いた。
「大丈夫?」
さっきのやり取りを見ていたのかもしれない。今日の主役で、幸せ絶頂の友達に気をつかわせるなんて、何をやってるんだ私は。
「何よー。大丈夫。何でもないって」
にこっと笑顔を作る。
「でも」
「本当だってー。ちょっと頭痛してきちゃってさ。悪いんだけど、先に抜けさせてもらうね」
「それはいいけど。高木とは?」
「もういいの。私もミノリみたいに素敵な彼、見つけるから!」
明るく言って、ミノリの背中を押した。
「ほら、花嫁は笑って。旦那さん待ってるよ。本当におめでとう!」
「ん……。今度、またゆっくり」
ミノリはやっと、新郎の方に戻っていった。
店を出ると、澄んだ空気が身体に心地よかった。
早歩きで街を歩く。まだある未練を断ち切るために。
気づけば、駅近くの公園を横切っていた。高木がベンチに座らせてくれて介抱してくれた場所だった。
ひどく泣きたい気分だった。
いつもより高いヒールで、足がかなり痛む。それでも今足を止めたら、何かに追いつかれそうで。泣き出してしまいそうで。止まれなかった。
そのまま公園を抜けると、高木が住んでいたマンションが見えてきた。
もう限界。と思う。
足がなのか、気持ちがなのか、分からない。
灯りがともるマンションエントランスの前。
立ち止まって、クラッチバックから、社用携帯を取り出す。クリーム色の小鳥が、ゆらりと揺れた。
「ナツキ」
びくりと振り返ると、高木が立っていた。
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