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15--告白
「何か用?」
出来るだけ冷たく、私は高木に言った。目を合わせたくなかった。
「いや。住んでたところ、懐かしくなって」
高木はこちらに歩いて来る。そうは言っているけど、高木のことだから、私が会場を出たのを見て、追いかけてきたのだろう。
「ナツキはこんなところで何してんの?」
どうしてここにいるかなんて、分かりそうなものだけど、と思った。それを知っててそんなことを聞いてきているなら、なんて無神経なやつなんだろうとまた泣きたくなった。
「……これ、返すから」
小鳥のキーホルダーを社用携帯からはずして、高木に突きつける。高木は一瞬黙ってから答えた。
「それは、お前にやったやつだろ。要らないなら勝手に捨ててけよ」
「ムカつくっ」
私はどんっと高木の胸にキーホルダーを突き付けた。
さっきは触れることを躊躇した。
だけど、これは違う。
これは、決別だから。
ほのかに高木の体温を感じた手に言い聞かせる。
「俺、なんかした?」
高木はため息混じりに聞く。
「なんにもしてない。私には、なんにも。それが、ムカつく」
「何言ってるか全然わかんねぇ」
高木は落ちてしまったキーホルダーを拾い、パンパンと払った。
「高木のこと、好きだった」
怒りたいのに、出した声は震えていた。本当は、こんな風に言うはずじゃなかったのに。
高木は、はーっと息をついて、軽くひたいを押さえた。
「なんで……このタイミングで言うんだよ」
「気づいてたでしょ!?私が好きなことくらい」
私はもう、こらえられずに泣いた。そんなことをしたって、もうどうしようもないのに。
「ん。まぁ。何となくそうかなとは気づいてたよ。でも、俺の転勤で離れたから。これでナツキは俺のこと忘れるかなとは思った」
高木は自分がどう思っていたのかは言おうとしなかった。それなのに、苦しそうな顔をするのが、余計にムカついた。
「転勤になって、離れることになって。あの時は、これでよかったと思った」
「どうして?そんなに嫌だった?よく私のこと避けてたもんね」
涙がいっぱい出てきて、顔がぐしゃぐしゃになった。子どもみたいに手のひらでぬぐっていると、高木が肩を握った。
「ナツキ、落ち着いて聞いて」
私は手で顔を隠したまま、嫌だと頭をふった。何も聞きたくなかった。
ふうっと小さなため息を高木がついたかと思うと、今度はぎゅっと抱きしめられていた。ひたいのところに、熱い息がかかる。
高木の家で、二人で眠ったときみたいで、あったかいな、と私は思う。跳ね飛ばしてやりたいくらい、腹が立っているはずなのに、そうやってすっぽり包まれていると、なんだかもうこのままでいいやと思った。
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