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私が落ち着いてきたのを感じたのか、高木は静かに言った。
「ナツキとは、同期でいたかったから」
私はその言葉に、びくりと一瞬体がこわばるような気がした。そんなことで、私の気持ちを踏みにじったのか。それでも次の瞬間には「ああそうか」と納得していた。
私が同期の関係から抜け出そうと必死になっていたその反対側で、高木は同期の関係のままでいようと必死になっていたのだ。全く逆の方向に、お互い頑張りあっていた。そしてその賭けに勝ったのは高木の方だったのだ。
「じゃあ……こんなキーホルダー残したり、部屋に泊めたりしないでよ。中途半端な優しさなんていらなかった」
言いながらも、本当はもう責める気持ちもどこかへ行ってしまっていた。高木の腕の中は、あったかくて力が抜ける。こうやって居られれば、過去がどうだったとか、これから先一緒にはいられないのだとか、そういうことがどうでもよくなった。
「そうだよな」
高木は、ごめんとつぶやきながら私の髪に顔をうずめた。その感触を確かめながら、あともう少しだけ、時間が止まればいいなと思った。だからこそ、私はここに居ちゃいけないのだ。
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