15--告白

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「へぇ、これがナツキの部屋かー」 二人で手をつないだまま、電車に乗って私のマンションまで帰って来た。 高木の部屋には何度か行ったことがあったけど、私の部屋に通すのは初めてだ。なぜか緊張した。 さっきキスしたけど、そのあとはどう接していいか分からなくて、私はずっと黙ったままだった。 「案外可愛い部屋じゃん」 白で統一した部屋を、高木はきょろきょろ見渡している。 可愛い、なんて言われるのがまだ慣れなくて、私は黙ったままケトルでお湯を沸かした。 「紅茶でもいい?」 「うん」 ティーパックをカップに入れ、お湯を注ぐ。 自分用に買っていたチョコレートを添え、ローテーブルの前にかしこまって座る高木に、「どうぞ」と出した。 「こんなおもてなしがあるなら、早くナツキの部屋来ればよかった」 高木はふうふう紅茶を冷ましながら笑う。 「同期だったら……。ただの同期だったら、部屋になんか来れないでしょ」 「ナツキは俺の部屋来てたじゃん」 「それはっ。会社から近くて集まりやすいし、終電逃して帰れなかったり理由があったからで」 「それだけ?」 高木はにやっと笑った。 私ははあっと息をつき、「それだけじゃないよ」と降参したようにつぶやいた。 「行く口実を、いつも探してた。ただの同期から、特別になるとっかかりをいつも探してた」 「うん」 高木は珍しく、茶々を入れずにうなずいた。 「高木は?」 「ん?」 「私、まだうまく信じられなくて。その。高木も私を好きでいてくれたってこと」 高木はネクタイをゆるめると、ふっと笑った。 「多分、俺はナツキが好きになってくれるより、もっと先に好きになってたよ」 「え?」 「どれだけ我慢したか。分かってる?」 そう言うと、高木は私に二度目のキスをした。 さっき道端でした一度目のキスより、もっと長く、深かった。 身体から力が抜けていく。 もう理性を保っていなくてもいいかな……。思考を手放そうとしたとき。 「はい、終わり」 「え!?」 いきなり身体を離されて、思わず声をあげる。 「これまで何年も同期だったんだ。ゆっくりでもいいだろ」 「ええ?今我慢してたって言ったじゃん」 「……ん。そんだけ大事にしたいってことだよ」 大事にって、別に、私はじめてでもなんでもないのに。 不満が顔に出ていたのか、高木は言った。 「俺がこれまで、隣で寝ててもどうして手出さなかったか分かる?」 「手出されなくて、どうしてだろって思ってたけど。もしかして高木そういうのに興味ないのかなって」 「んなわけはない」 「彼女もずっといないし、女に興味ないってうわさもあったけど?」 高木はがくっと頭を垂れて、「俺のうわさってどうしてそう極端」とつぶやいた。 「大事にしたかったからに決まってんだろ」 顔を上げて、真剣な目つきでそう言われると、どきりとした。 「今日ちゃんと付き合うことになったけど。勢いとかじゃなくて。ナツキとのはじめてをちゃんと大事にしたい。……ここ数か月は特に、俺のせいでナツキを苦しめたし。俺、ナツキにちゃんと好きだって伝えなかったこと後悔してた」 「それは私も。言わなかったこと、後悔した」 「だからさ、まずはたくさん話そうよ。これまでのこともこれからのことも」 高木はそうほほ笑むと、「ほら、シャワーしてきな。髪のセットほどくの大変だろ」と面倒見のいいことを言った。 「待っててくれる?」 「当たり前」 「どこにもいなくならない?」 私はすがるように高木を見た。もう置いて行かれるのはこりごりだ。 「そんな可愛いこと言うとまたチューするぞ」 かあっと赤くなってしまい、「バカじゃないの」と言い放ち、私は急いでお風呂に向かった。
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