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1  カーテンを閉め明かりを落とした暗い社内食堂に、百人ほどの人間が息を潜めて座っている。唯一明るい光を放つ大きなプロジェクターの隣に立つのは、かつての同僚、吉井だ。しきりに汗を拭いしどろもどろに説明する彼の姿を、直冬(なおと)ははらはらと見守っていた。  そのプロジェクターの前にだけ長机が設えてあり、十名のお偉方が吉井の発表を聞く。契約社員である直冬には面々を眺めても何の感慨も湧いてこないが、彼らは経営幹部らしい。  この発表は、事故を起こしたプロジェクトの責任者が背景や根本的な原因を発表し、皆そこから何かを学びましょう、という趣旨のもので、早い話が吊し上げだ。吉井は、部課長はもちろん、事業部長の前でまで入念なリハーサルをやらされていた。 「えー……、以上から我々は顧客との連携を深めつつ、各支店の有識者にレビューを依頼することで、潜在不良の発見に努めて参ります。以上です」  吉井は締めの言葉だけは淀みなく言い、頭を下げた。直冬も深く息を吐き、いつのまにか汗ばんでいた手をスラックスで拭う。     
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