3.密談

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「それで勇気は、弁護士になるより新聞社を選んで正解だった、って思っているわけ?」  乃理子が少し意地悪な質問を振り向けると、勇気は眼を伏せて含み笑いを洩らした。 「それはそうだ。渉外弁護士として高給を稼ぐ計画は頓挫したけれど、こうして乃理子と毎日顔を合わせられるしね」  余計な冗談だとは思ったが、言われて嫌な気はしない。正直なところ、そんなふうに言われて、嬉しい。 「ところで乃理子、どうして今夜ここに来たかわかる?」  突然尋ねられ、乃理子は勇気の顔を見つめた。 「今日はお前の誕生日だろ? だから、ちょっと洒落たところで乾杯しようと思ってさ」  突然の衆院選で忙しい最中に誕生日を憶えてくれていたことに感謝感激したが、乃理子はわざとツッケンドンな振りをした。 「それだったら、フレンチか何か、奢って欲しかったところだわね」 「アペリティフは飲んだから、これからラーメン屋へでも行って祝おうぜ」  勇気に笑顔を見せられて、乃理子は苦笑した。  ラーメン屋、それも親密な雰囲気で、悪くない。
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