4.真意

2/3
前へ
/15ページ
次へ
「それは、日本未来党はしがらみがないからそうできる、っていうこと?」 「その通り。大成党はいまだに派閥のしがらみで動いているから、吉田首相でさえ慎重派の意見を無視できない。メディアは護憲派ばかりだから、改憲という言葉を聞いただけで、戦争を始めたがっている、と政権を批難し、発言した議員をバッシングする。 大成党議員はそんな炎上を怖れている連中ばかりだから、これまで中身のある改憲の議論が進まなかった」 「でも大畑知事ならできる、というわけね。府議選で圧勝し、今も応援に行けば祥子コールが起こるぐらいの人気だしね」  乃理子が応じると、勇気がうなずいた。 「メディアの当面の目的は吉田政権の打倒だ。その為だったら、政権を奪取してくれる可能性がある大畑知事が改憲を政策の一つに掲げていても、今の時点では追求しないし叩かない。・・実は首相筋から面白い話を聴いたんだ」  勇気が声をひそめて身を乗り出したので、乃理子も顔を近づけた。 「大畑知事が旗揚げする前に、首相と会食している。大阪への万博誘致の件で、という表向きの説明だったが、どうやらそこで改憲の話が出たらしい」  いったい勇気がどこでそんな情報を得たのかは定かでなかったが、乃理子は彼の話に耳を傾けた。 「つまり、首相は大畑知事の新党旗揚げに驚いた振りをしたが、あれは演技かもしれない、ということだ」  勇気は眉根を寄せて真剣な表情を浮かべた。 「吉田首相は、別に首相の椅子にしがみつきたいわけではない。政治家の彼がやり遂げたいのは、国民党の創立時からの目的である憲法改正だ。 この七十年間というもの、左派的偏向のあるメディアのせいもあって、憲法改正は発案されるたびに失敗、憲法を一語でも変えさせない、という護憲派にやられっぱなしだった。 この機会を逃したら改憲できない、という判断は、大成党が三分の二の議席を確保しているうちに、ということではない。しがらみのない元大成党の大畑知事の人気が冷めないうちに、メディアが本気で彼女足を引っ張りはじめる前に、ということだ。だから衆院解散を決めた」  勇気の推理を考慮してみる。 「でも、大畑知事が真の意味での改憲をやってくれるかどうか、保証はないわ」  勇気は薄く笑うと言い足した。 「大畑知事の亡くなった父親は一時防衛大学の教授だった人だ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加