1.驚愕

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政権打倒を掲げるメディアの応援を得ることで、既成政党のバックアップがなくても浮動票を大きく動かして勝利できる、という典型だったわ」  勇気は手にしていたコンビニのバッグからシュークリームと缶コーヒーを出して手渡してくれた。 「はい、乃理子の分も買って来てやった。ま、座れよ」  サンキュー、と言いながら、乃理子は椅子に座り直してシュークリームのパッケージを勢い良く開けた。こういうところは気がきく男ではある。 「でもさ、府知事になったばかりで公約を全く実行していないくせに、さあ次は国政だ、って態度、ムカつくよな。やっぱり女には大事な仕事を任せられない」  勇気の言にカチンときて、乃理子は彼をにらんだ。 「政治に男も女もないでしょ? 新聞社の人間がそういう差別発言をすべきじゃない」 「そう怒るなよ。少なくとも乃理子のことは女だとは思っていないから、安心しろよ」  女だとは思っていない、との勇気の言葉に内心傷ついたが、乃理子は説教した。 「あのね、府知事が女だから、という見方、やめた方がいいと思う。でないと無意識にそういう偏見が記事に染み出て、読者から刺されることになるわよ」 「しかし、女だから府知事選に勝てた、っていう面もある。府議会の狸オヤジ共を相手にする健気な女性闘士、ジャンヌダルクだ、って持ち上げていたテレビもあったじゃないか」  大畑祥子は帰国子女、元は某テレビ局の女子アナだった。人気と美貌を買われて大成党にリクルートされ、ジジーキラーだと噂されていた経緯もあり、五十歳を超えた今でもいつも華麗なファッションで登場し、女性アピールがないとは言えない。 「それも戦術の一部だということは認めるわ。でも、あのしたたかさ、実力は男並み」  いや、男以上かもしれない、と乃理子は考える。男性議員だったら当然考慮するであろう義理やしがらみからフリーでいられるのは、女性であることを逆手に取り、利用しているとも受け取れる。  勇気は自分もシュークリームを頬張りながら続けた。 「俺は別に大阪府民じゃないが、もしそうだったら怒り心頭だぜ。万博誘致を成功させる為に一致団結しよう、とか言っていた矢先に国政に討って出る。まるで府知事選を踏み台にしたに過ぎない。大畑に投票した府民にしてみれば、俺たちの票をなんだと思っているんだ、って言いたくなるさ」
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